復興の味覚紀行

雲仙普賢岳噴火からの再生 じゃがいもが紡ぐ復興の味覚

Tags: 雲仙, じゃがいも, 復興, 郷土料理, 長崎, レシピ

火山の恵み、復興の糧 雲仙のじゃがいもが語る物語

長崎県の島原半島にそびえる雲仙岳。その主峰である普賢岳は、1990年代初頭に大規模な噴火活動を起こし、地域に甚大な被害をもたらしました。火砕流や土石流は多くの尊い命と、豊かな自然、そして人々の暮らしの基盤を奪い去りました。特に、農業や観光業といった地域の主要産業は壊滅的な打撃を受け、未来への希望を見失いかけた人々も少なくなかったと伝わっています。

しかし、深い悲しみと困難の中にあっても、地域の人々は決して諦めませんでした。そして、その復興の道のりを力強く支えた「味覚」の一つに、雲仙のじゃがいもがあります。噴火活動が落ち着いた後、火山灰に覆われた土地で比較的育てやすく、食料としても経済作物としても重要だったじゃがいもは、まさに地域の再生を象徴する存在となったのです。

復興の畑から食卓へ じゃがいもに込められた人々の想い

雲仙地方は、普賢岳の恩恵を受けた肥沃な大地と温暖な気候に恵まれ、古くから農業が盛んな地域です。特にじゃがいもは、その気候風土に適した作物として、地域経済を支える重要な役割を担ってきました。

噴火後、荒廃した農地を再び耕し、種芋を植える作業は、想像を絶する苦労伴うものでした。降り積もった火山灰を取り除き、地質を改良し、失われたインフラを再建しながらの作業です。それでも、農家の方々は「この土地を諦めるわけにはいかない」という強い想いを胸に、一歩ずつ畑を再生させていきました。彼らの不屈の精神と努力が実を結び、再び雲仙の畑に緑が戻り、大地の恵みであるじゃがいもが収穫されるようになったのです。

このじゃがいもは、単なる作物ではありませんでした。それは、失われた故郷を取り戻そうとする人々の願いであり、未来への希望そのものです。収穫されたじゃがいもは、地域の食卓に並び、人々の心と体を支えました。そして、その素朴でありながら力強い味わいは、復興への道のりを共に歩む、かけがえのない「復興の味覚」となったのです。

雲仙じゃがいもで作る「里山煮」 レシピと調理のコツ

雲仙のじゃがいもの中でも代表的な品種に「ニシユタカ」があります。煮崩れしにくく、ホクホクとした食感としっかりとした甘みが特徴で、煮物に適しています。ここでは、この雲仙じゃがいもを使った、地域の家庭で親しまれる素朴な煮物「雲仙じゃがいもの里山煮」のレシピをご紹介します。

材料（4人分）:

作り方:

  1. じゃがいもは皮をむき、一口大に切って水に10分ほどさらしてから水気を切ります。人参は乱切りに、玉ねぎはくし形切りにします。こんにゃくは手でちぎるかスプーンで一口大にし、下茹でしてアクを抜きます。豚バラ肉は3〜4cm幅に切ります。
  2. 厚手の鍋にサラダ油を熱し、豚バラ肉を炒めます。肉の色が変わったら玉ねぎを加え、しんなりするまで炒めます。
  3. じゃがいも、人参、こんにゃくを加えて全体に油が回るように炒め合わせます。
  4. 出汁を加えて煮立たせます。アクを丁寧に取り除きます。
  5. Aの調味料を全て加え、蓋をして弱火で15〜20分煮ます。じゃがいもに火が通り、味が染み込むまで煮込みます。
  6. 蓋を開け、煮汁を軽く煮詰めながら全体に絡めます。お好みで、塩ゆでしたさやいんげんなどを添えて完成です。

調理のコツ:

雲仙の恵みを探す 食材の入手方法と現地情報

「雲仙じゃがいもの里山煮」に欠かせない雲仙のじゃがいもは、収穫時期（主に春と秋）には地元の直売所やスーパーマーケットで容易に入手できます。旬の時期以外や地域外にお住まいの場合は、長崎県のアンテナショップや、インターネット上の農産物直販サイトなどを探すと見つかることがあります。火山灰地特有のミネラルを豊富に含んだ土壌で育まれたじゃがいもは、一般的なものとは一味違う、濃厚な味わいが魅力です。

また、煮物の味の決め手となる醤油やみりん、砂糖といった調味料にも、地域の特色が現れます。島原半島には昔ながらの製法を守る醤油蔵や味噌蔵があり、地元の風土に合わせて作られた調味料は、料理に深みと温かさを与えてくれます。これらも地元の物産店やオンラインストアで入手できる可能性があります。

現地で「復興の味覚」を味わう・体験する:

雲仙地方を訪れた際には、ぜひ現地の飲食店で雲仙じゃがいもを使った様々な料理を味わってみてください。雲仙温泉街や島原市内には、郷土料理を提供するお店が点在しています。また、道の駅「みずなし本陣ふかえ」のように、噴火災害に関する学習施設と地元の特産品販売所が一体となった場所もあります。ここでは、旬の野菜やじゃがいも、それを使った加工品などを購入できます。

時期が合えば、観光農園でのじゃがいも掘り体験もおすすめです。自分で収穫したじゃがいもを持ち帰り、自宅で「里山煮」を作れば、復興の土壌から生まれた恵みをより深く感じられるでしょう。また、普賢岳噴火の爪痕を残す「定点観測点」や「旧大野木場小学校被災校舎」などを訪れると、食文化が育まれた歴史的背景を肌で感じることができます。関連する食のイベントとしては、新じゃがいもの収穫時期に合わせて開催される農産物フェアなどがあります。

雲仙じゃがいもが語り継ぐ、未来への希望

雲仙のじゃがいもを使った「里山煮」は、見た目は素朴な家庭料理かもしれません。しかし、その一皿には、普賢岳噴火という未曽有の災害を乗り越え、再びこの土地で生きることを選んだ人々の、汗と涙、そして不屈の精神が詰まっています。火山灰に覆われた大地を耕し、失われた日常を取り戻そうと奮闘した人々の物語は、このじゃがいものホクホクとした食感と、じんわりと広がる優しい甘みの中に生き続けています。

雲仙のじゃがいも料理を味わうことは、単に美味しいものを食べるということ以上の意味を持ちます。それは、逆境から立ち上がった地域の歴史と文化、そして未来へ希望を繋ぐ人々の温かさに触れる体験です。ぜひ、ご自宅でこの「里山煮」を作ってみたり、実際に雲仙を訪れて、大地からの恵みとそこに込められた物語を感じてみてください。この味覚が、困難を乗り越える強さと、日々の食卓への感謝を改めて教えてくれることでしょう。