災いを越え、甘く実る 長野りんごアップルパイに込められた復興の物語
復興の甘み 長野りんごアップルパイに宿る希望
信州長野、ここは豊かな自然に恵まれ、四季折々の美しい風景が広がる土地です。そして、この地を代表する味覚の一つに、色鮮やかでみずみずしいりんごがあります。しかし、長野のりんごは、時に自然の猛威に晒されることもあります。特に、令和元年東日本台風は、千曲川流域を中心に甚大な被害をもたらし、多くのりんご畑が濁流に沈みました。
この深い傷跡からの復興の過程で、一つの甘く温かい味覚が、人々の心に寄り添い、希望の象徴となりました。それは、長野のりんごを使ったアップルパイです。単なるお菓子ではなく、被災したりんご農家の方々の苦悩と、そこからの立ち上がり、そして地域全体で支え合う強い絆が詰まった「復興の味覚」なのです。
苦難を乗り越えた畑から生まれた物語
令和元年東日本台風は、長野県にとって忘れられない災害となりました。多くのりんご畑が浸水し、収穫間近だった大切なりんごが泥まみれになってしまいました。木々も傷つき、農家の方々は言葉にならないほどの絶望を感じたといいます。
しかし、この逆境の中で、人々はただ立ち尽くすのではなく、一歩ずつ前を向くことを選びました。被災した農家から、傷ついたりんごや規格外になってしまったりんごを積極的に買い取り、加工品として活用する取り組みが始まりました。その中で注目されたのが、アップルパイです。
傷があっても味は変わらない、あるいは加工することで新たな美味しさが生まれるりんごを使い、地域の洋菓子店や住民グループ、ボランティアの方々がアップルパイを作り始めたのです。「復興支援アップルパイ」と名付けられたそれらのアップルパイは、多くのメディアで紹介され、全国から注文が殺到しました。これは単に美味しいからというだけでなく、一つ一つのアップルパイに込められた「負けない」「立ち上がる」という強いメッセージが、人々の心を打ち、共感を呼んだからに他なりません。このアップルパイは、被災した農家の方々にとって収入源となり、次の年への希望を繋ぐ大きな力となりました。また、この活動を通して生まれた人々の繋がは、地域コミュニティの再生にも繋がっています。
自宅で味わう復興の甘み シンプルアップルパイ
ここでは、長野のりんごを使ったアップルパイを、ご自宅で気軽に再現できるレシピをご紹介します。被災地への想いを馳せながら、作ってみてはいかがでしょうか。
材料
- りんご(紅玉、ふじ、シナノゴールドなど、お好みの品種): 3〜4個(約600g)
- グラニュー糖: 80〜120g(りんごの酸味や甘さ、お好みに合わせて調整)
- 無塩バター: 30g
- レモン汁: 大さじ1
- シナモンパウダー: 小さじ1/2〜1(お好みで)
- ナツメグパウダー(あれば): 少々
- ラム酒(あれば): 大さじ1
- 冷凍パイシート(18cm角程度): 2枚
- 卵黄(つや出し用): 1個分
- 打ち粉(強力粉または薄力粉): 適量
作り方
- りんごの下準備: りんごは皮をむき、芯を取り除いて1〜1.5cm角に切ります。すぐにレモン汁を全体に絡め、変色を防ぎます。
- フィリングを煮る: フライパンまたは鍋にりんご、グラニュー糖、バターを入れて中火にかけます。混ぜながら、りんごから水分が出てくるまで加熱します。
- 水分が出てきたら、蓋をせずに時々混ぜながら、水分がある程度飛んでとろみがつくまで10〜15分程度煮詰めます。りんごの食感を少し残したい場合は短めに、しっかり煮崩したい場合は長めに煮詰めます。
- 火から下ろす直前にシナモン、ナツメグ(あれば)、ラム酒(あれば)を加えて混ぜ合わせます。粗熱を取り、完全に冷まします。
- パイ生地の準備: 冷凍パイシートは表示に従って解凍します。打ち粉をした台にパイシートを1枚置き、めん棒で型よりも一回り大きく伸ばします。パイ型に敷き込み、底面にフォークで数カ所穴を開けます(ピケ)。
- もう1枚のパイシートも同様に伸ばし、飾り切りをするか、帯状に切るか、蓋用のパイシートとして準備します。
- 詰め込み: 5のパイ型に、完全に冷めた4のフィリングを隙間なく詰めます。
- 蓋をする: 6で準備したパイシートをフィリングの上に被せます。型からはみ出た部分は切り落とし、端をフォークで押さえるか、指でつまんでしっかりと閉じます。飾り切りをした場合は、フィリングの上に格子状などに乗せます。
- 焼成: 表面につや出し用の卵黄を刷毛で塗り、180℃に予熱したオーブンで30〜40分、表面がきつね色になり、パイ生地がこんがりと焼けるまで焼きます。
- オーブンから取り出し、型に入れたまま粗熱を取り、完全に冷めてから型から外すと崩れにくいです。温かいままでも美味しくいただけます。
調理のコツ
- りんごは酸味のある品種(紅玉やブラムリーなど)を一部使うと、味が引き締まり美味しく仕上がります。甘みの強いふじなどを使う場合は、砂糖の量を少し控えるか、レモン汁を多めに加えると良いでしょう。
- フィリングを煮詰める際は、焦げ付かないように注意しながら、水分をしっかり飛ばすことが大切です。水分が多すぎると、パイ生地が soggy(湿っぽく)なってしまいます。
- シナモンの量はお好みで調整してください。苦手な場合は少量にするか、省略しても構いません。
- パイシートは解凍しすぎると扱いにくくなるため、冷たいうちに作業するのがコツです。
長野りんご、その味覚を支える人々
アップルパイに使用するりんごは、できれば長野県産のものを選んでいただきたいものです。長野県内のJAや農家直売所、道の駅などで新鮮なりんごが手に入ります。近年では、インターネットの直販サイトやふるさと納税の返礼品として、被災地を含む長野県産のりんごや加工品が全国各地で購入できるようになりました。
現地で味わい、体験する
長野県を訪れる機会があれば、ぜひ現地のアップルパイを味わってみてください。被害が大きかった地域、例えば長野市や千曲市、須坂市などの洋菓子店やカフェ、道の駅などでは、地元のりんごを使ったアップルパイを提供しているお店が多くあります。お店によって使うりんごの品種やフィリング、パイ生地に工夫が凝らされており、それぞれの個性や物語を感じることができます。
また、秋の収穫期には、りんご狩りを楽しめる農園も数多くあります。被害を乗り越え、再び豊かな実りをつけた畑を訪れることは、復興の力を肌で感じる貴重な体験となるでしょう。事前に、被災からの復興状況を積極的に発信している農園を探して訪れるのも良いかもしれません。
復興を願う甘く温かい味
長野りんごのアップルパイは、ただ美味しいスイーツというだけではありません。それは、自然災害の猛威に立ち向かった人々の不屈の精神、失意の中から希望を見出した力、そして地域で支え合った温かい絆の証です。
一口頬張れば、りんご本来の甘酸っぱさと、シナモンの優しい香りが口いっぱいに広がり、サクサクのパイ生地が心地よい食感を奏でます。その温かい甘さは、まるで困難を乗り越え、再び陽の光を浴びるりんご畑のように、私たちの心にも温もりと希望を与えてくれます。
この記事を通して、長野りんごアップルパイが持つ特別な意味合いを感じていただけたなら幸いです。ぜひご自宅でこの味を再現していただくか、可能であれば現地を訪れ、人々の温かさや復興の息吹と共に、この特別なアップルパイを味わってみてください。