北海道むかわ町ししゃもに紡がれる復興の物語
北海道むかわ町ししゃもに紡がれる復興の物語
北海道の南部に位置するむかわ町は、清流・鵡川と太平洋に抱かれた豊かな自然を持つ町です。この地を代表する味覚として全国に知られているのが、「ししゃも」でございます。特に秋、産卵のために川を遡上するししゃもを捕獲する漁は、むかわ町の風物詩であり、地域経済を支える重要な産業です。
しかし、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震は、このむかわ町に大きな被害をもたらしました。家屋の倒壊、インフラの寸断、そして港湾施設や水産関連施設への被害は、町の基幹産業である漁業にも深刻な影響を与えたのです。この困難な状況からの復興の過程において、むかわ町のししゃもは、単なる食材としてだけでなく、地域の人々の絆を深め、未来への希望を象徴する「復興の味」として特別な意味を持つようになりました。
苦難を乗り越え、未来へ繋がる「ししゃも」
むかわ町のししゃもは、世界的にも希少な存在です。カナダや北欧などで獲れる「カペリン」という魚が一般的に「シシャモ」として流通していますが、本来の「シシャモ」は、このむかわ町近海を含む限られた海域でしか獲れない固有種です。その独特な風味、特に焼いた時に感じられるキュウリのような香りは、一度味わうと忘れられない魅力があります。オスは身の旨みが強く、メスはプチプチとした卵の食感が特徴で、それぞれに違った美味しさがあります。
北海道胆振東部地震では、むかわ町内の港湾施設や漁業関連施設も被災し、ししゃも漁の再開が危ぶまれました。しかし、漁業者や町の人々は諦めることなく、協力し合い、復旧作業に尽力しました。多くの困難を乗り越え、地震発生からわずか一ヶ月後には、懸命な努力の結果、ししゃも漁が再開されたのです。この出来事は、被災した町にとって大きな希望の光となりました。捕れたてのししゃもが港に揚がる光景は、町に活気を取り戻し、人々を結びつける象徴となったのです。ししゃも漁は、むかわ町のアイデンティティであり、復興への強い意志そのものでした。
自宅で味わうむかわ町の味覚:ししゃもの南蛮漬け レシピ
むかわ町のししゃもを使った家庭で気軽に楽しめる料理として、彩り豊かな「ししゃもの南蛮漬け」をご紹介いたします。
材料
- むかわ町産ししゃも(生または解凍):10~15尾
- 玉ねぎ:1/2個
- 人参:1/3本
- ピーマン(またはパプリカ):1個
- 片栗粉または薄力粉:大さじ3
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揚げ油:適量
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南蛮酢
- 醤油:大さじ3
- 酢:大さじ4
- 砂糖:大さじ3
- みりん:大さじ1
- 唐辛子(輪切り):少々(お好みで)
- だし汁または水:大さじ2
作り方
- ししゃもは流水で洗い、キッチンペーパーでしっかりと水気を拭き取ります。軽く塩胡椒(分量外)を振ります。
- 玉ねぎは薄切り、人参とピーマンは細切りにします。
- 鍋に南蛮酢の材料を全て合わせ、中火にかけます。ひと煮立ちしたら火から下ろし、粗熱を取っておきます。
- ししゃも全体に片栗粉または薄力粉を薄くまぶします。余分な粉ははたいて落とします。
- 揚げ油を170℃に熱します。ししゃもを菜箸で丁寧に油に入れ、きつね色になりカリッとするまで揚げます。一度にたくさん入れすぎず、2~3回に分けて揚げると、油の温度が下がりにくく上手に揚がります。
- 揚がったししゃもが熱いうちに、手順2で切った野菜と共に、粗熱を取っておいた南蛮酢に漬け込みます。
- 冷蔵庫で30分以上漬け込めば完成です。半日〜一晩漬け込むと、味がより深く馴染み美味しくなります。
調理のコツとポイント
- ししゃもにまぶす粉は薄すぎると衣が付かず、厚すぎると油っこくなります。全体にうっすらと白くなる程度が目安です。
- 揚げる際の温度が低すぎるとベタつきやすくなります。170℃を保つように調整してください。
- 揚げたししゃもを熱いうちに南蛮酢に漬け込むことで、味がよく染み込みます。
- 南蛮酢を冷ましてから漬け込むと、ししゃもが煮崩れせず形が綺麗に仕上がります。
- 野菜は玉ねぎ、人参、ピーマン以外にも、ナスやパプリカ、きのこ類などを揚げて一緒に漬け込んでも美味しく召し上がれます。
むかわ町のししゃもと入手方法
むかわ町産のししゃもは、その希少性から主に秋の漁期(例年10月~11月頃)に水揚げされます。新鮮な生ししゃもは、この時期にむかわ町を訪れるか、地元の鮮魚店、道の駅などで購入できる可能性が高いです。漁期以外や地域外でむかわ町産のししゃもを入手するには、冷凍されたものが中心となります。
入手方法としては、むかわ町の漁業協同組合や水産加工業者の公式オンラインストア、むかわ町役場が運営する特産品販売サイト、または「ふるさと納税」の返礼品として提供されている場合がございます。また、北海道物産展などの催事で取り扱われることもあります。これらのルートを活用することで、地域外にお住まいの方でも、むかわ町の特別な味覚を取り寄せることが可能です。購入時には、「北海道むかわ町産」であることをご確認ください。
現地で味わう、復興の味
むかわ町を訪れる機会がございましたら、ぜひ現地で獲れたてのししゃもを味わってみてください。秋の漁期には、町内の多くの飲食店で様々な種類のししゃも料理が提供されます。シンプルに塩焼きにしたものは、ししゃも本来の風味を最もダイレクトに感じられる逸品です。炭火でじっくりと焼かれたししゃもは、皮はパリッと香ばしく、身はふっくらとして、口の中に独特の香りが広がります。
道の駅むかわ「四季の館」内にあるレストランや、町内の寿司店、居酒屋などでも、新鮮なししゃも料理を堪能できます。時期によっては、ししゃも寿司、ししゃもフライ、ししゃもの天ぷら、ししゃもの刺身(鮮度が良い場合に限る)など、様々な形でししゃもを味わうことができます。
また、例年秋には「むかわ町産業まつり」のようなイベントが開催され、水揚げされたばかりのししゃもが販売されたり、ししゃもを使った料理が振る舞われたりすることもあります。これらのイベントは、地域の人々の活気を感じながら、復興の歩みを間近に感じられる貴重な機会となるでしょう。
五感で感じる、むかわ町の情景
秋深まるむかわ町を訪れると、海岸線に広がる穏やかな海と、収穫を終えた黄金色の田んぼが目に映ります。少し肌寒い潮風には、かすかに海の匂いが混じっています。ししゃも漁の時期には、早朝の漁港に活気が溢れ、水揚げされたばかりのししゃもが銀色に輝いています。
家庭の食卓では、こんがりと焼かれたししゃもから香ばしい湯気が立ち上ります。箸でつまむと、ほどよい弾力があり、口に運ぶと、キュウリのような爽やかな香りと共に、オスのしっかりとした身、またはメスのプチプチとした卵の食感が広がります。その滋味深い味わいは、鵡川の清らかな水と太平洋の恵み、そして何よりも、この地でししゃもを守り育て、困難を乗り越えてきた人々の情熱を感じさせてくれます。南蛮漬けであれば、食卓に彩りを添え、甘酢っぱい香りが食欲をそそります。
復興と共に味わう、むかわ町のししゃも
北海道むかわ町のししゃもは、ただ美味しいというだけでなく、2018年の胆振東部地震からの復興の歩みと深く結びついた、特別な味覚です。厳しい状況から立ち上がり、再びししゃも漁を軌道に乗せた地域の人々の強い意志と、ふるさとを愛する想いが、その一尾一尾に込められています。
この「復興の味覚」を、ぜひご家庭で再現してみてください。今回ご紹介した南蛮漬けをはじめ、シンプルな塩焼きでも、むかわ町の風土と人々の物語を感じることができるはずです。そして、もし可能であれば、秋のむかわ町を実際に訪れ、旬のししゃもを味わい、活気ある漁港や温かい人々に触れてみてください。その体験は、きっと忘れられないものとなるでしょう。むかわ町のししゃもは、未来へ向かう希望と共に、私たちの食卓に届けられています。