復興の味覚紀行

清流の恵み、再び 京都九条ネギと歩む水害からの復興の道

Tags: 京都, 九条ネギ, 復興, 郷土料理, レシピ, 水害

清流の恵み、再び 京都九条ネギと歩む水害からの復興の道

京都府南部、清流のほとりに広がる肥沃な大地は、古くから豊かな農産物の産地として知られています。この地で育まれる京野菜の中でも、特に親しまれているのが「九条ネギ」です。その柔らかく甘みのある味わいは、多くの人々に愛されています。しかし、この地域は過去に幾度か水害に見舞われ、特に平成25年台風18号による豪雨は、九条ネギの生産基盤に甚大な被害をもたらしました。泥水に浸かり、多くの畑が壊滅的な状況に追い込まれたのです。

しかし、この困難を乗り越え、九条ネギは力強く再生しました。単なる農産物としてだけでなく、地域の復興を象徴する存在として、再び人々の希望となったのです。この記事では、九条ネギが水害からの復興過程でどのように育まれ、地域の人々の暮らしと深く結びついてきたのかを、その味わいと共に探ります。

復興を支えた緑の絆

九条ネギは、今から1300年以上前、奈良時代に中国から伝来したとされています。京都の風土に適応し、品種改良が重ねられて現在の姿になりました。特に、京都府南部の肥沃な土壌と清らかな水は、九条ネギ独特の風味と柔らかさを育みます。

平成25年の水害では、多くの農家が収穫間近のネギを失い、泥かきに追われる日々が続きました。絶望的な状況の中、地域内外からのボランティアによる泥かき支援や、被災を免れた農家からの種苗の提供など、温かい支援の輪が広がりました。また、九条ネギの持つ強い生命力が、泥の中から再び芽を出し始めた姿は、地域の人々にとって何よりの希望となりました。

九条ネギを使った料理は、厳しい冬を乗り越える滋養食として、また、家族や仲間が集まる食卓の中心として、古くから地域に根差しています。水害後、被害を乗り越え収穫された九条ネギは、食卓に並ぶたびに、地域の再生と人々の絆の強さを実感させる存在となりました。「この味をまた味わえるなんて」「よく頑張ったね」という言葉と共に、ネギは復興への道を力強く照らす緑の光となったのです。

九条ネギを味わう、自宅で楽しむ

九条ネギの魅力は、そのトロリとした食感と、火を通すことで増す甘み、そして豊かな香りです。様々な料理に活用できますが、今回は九条ネギそのものの美味しさをシンプルに味わえる代表的な二品をご紹介します。

九条ネギのぬた

ネギの甘みと酢味噌のコクが絶妙に合わさる、彩り豊かな一品です。

材料:

作り方:

  1. 九条ネギはよく洗い、根元の硬い部分を切り落とします。緑の葉の部分まで全て使用します。
  2. 鍋にたっぷりの湯を沸かし、塩少々(分量外)を加えます。ネギを根元から入れ、全体が鮮やかな緑色になったら(約1〜2分)、すぐに冷水にとって冷まします。
  3. 冷めたネギの水気をしっかりと絞り、3〜4cmの長さに切ります。
  4. 茹でイカは輪切り、または食べやすい大きさに切ります。ワカメを使用する場合は、戻して食べやすい大きさに切ります。
  5. ボウルに[A]の材料を全て入れ、なめらかになるまでよく混ぜ合わせます。
  6. 5のボウルにネギとイカ(またはワカメなど)を加え、優しく和えれば完成です。

調理のコツ: ネギは茹ですぎると食感が悪くなるため、サッと短時間で茹でるのがポイントです。茹でた後、すぐに冷水で冷ますことで色止めになり、鮮やかな緑を保てます。合わせ酢の味は、お好みで砂糖や酢の量を調整してください。和からしを多めにすると、ピリッとしたアクセントになります。

九条ネギたっぷりネギ焼き

外はカリッと、中はトロッとした九条ネギの甘みが存分に楽しめるネギ焼きです。

材料:

作り方:

  1. 九条ネギはよく洗い、根元の硬い部分を切り落とし、小口切りにします。
  2. ボウルに薄力粉、卵、水、顆粒和風だし、醤油を入れて泡立て器で混ぜ合わせ、生地を作ります。
  3. 別の大きなボウルに切った九条ネギを入れ、2の生地をネギ全体がしっとりするまで加えます(生地が多すぎるとネギの風味が弱まります。ネギが主役になるように、生地は少なめに絡めるイメージです)。牛すじ煮込みなどの具材も加えます。
  4. フライパンを中火で熱し、サラダ油をひきます。3の生地を流し入れ、丸く形を整えます。厚さはお好みですが、薄めの方がカリッと仕上がります。
  5. 片面に焼き色がついたら裏返します。蓋をして弱火でじっくりと蒸し焼きにし、中まで火を通します。
  6. 両面がきつね色になり、中まで火が通ったら完成です。お皿に盛り付け、お好みでソース、醤油、ポン酢などをかけていただきます。紅ショウガを添えるのもおすすめです。

調理のコツ: 九条ネギは量をたっぷり使うのが美味しさの秘訣です。生地はダマがなくなるまでしっかりと混ぜてください。焼く際は、最初に強火で焼き色をつけ、その後弱火にして蓋をし、じっくりと火を通すと、ネギがトロトロになります。具材に牛すじを使うと、より本格的な味わいになります。

九条ネギとの出会いを求めて

九条ネギは、京都市内のスーパーの京野菜コーナーや、JAの直売所などで比較的容易に入手できます。「京のブランド産品」として認証されているものは、品質が保証されています。また、最近では、インターネットのオンラインストアでも新鮮な九条ネギを取り扱う農家や専門店が増えています。特定の品種や、より新鮮なものを求める場合は、こうした経路での入手も検討してみてください。

現地で九条ネギ料理を味わうならば、京都市内の居酒屋やお好み焼き店、うどん店などで様々な九条ネギを使った料理に出会えます。特にネギ焼きは、京都や大阪の鉄板焼き店で人気のメニューです。九条ネギの主な産地である京都市南区や伏見区周辺には、直売所や、収穫体験ができる農園(要事前確認)などもあります。訪れる時期によっては、地域の農産物直売イベントなどで、新鮮な九条ネギを購入したり、九条ネギを使った料理を味わったりできる機会があるかもしれません。

食卓に映える緑の輝き

九条ネギの魅力は、その鮮やかな緑色にもあります。ぬたにすれば、白や茶色の具材の中でひときわ映え、食卓を華やかに彩ります。ネギ焼きは、焼く際に立ち上る香ばしい香りが食欲をそそり、カリッとした表面とトロリとした中のコントラストが食感の楽しさを引き立てます。おうどんの上にたっぷり乗せれば、湯気と共に立ち上るネギの香りが、優しく心を温めてくれます。清流のほとりのネギ畑を吹き抜ける風や、そこで働く人々の笑顔を想像しながら味わう九条ネギは、きっと格別の美味しさでしょう。

復興の味覚、九条ネギ

京都の九条ネギは、単なる美味しい野菜ではありません。水害という苦難を乗り越え、再び豊かな恵みをもたらしてくれた、復興のシンボルです。九条ネギが食卓に並ぶたびに、地域の人々は過去の困難を忘れず、支え合うことの大切さを改めて感じています。

この復興の味覚を、ぜひご自宅でも味わってみてください。この記事でご紹介したレシピは、九条ネギの魅力を引き出すシンプルなものですが、きっとその力強い生命力と、地域の温かさを感じていただけるはずです。そしてもし機会があれば、九条ネギの産地を訪れ、その美しい風景の中で、育まれた味を体験していただければ嬉しく思います。九条ネギの緑に触れることは、地域の復興への道のりを肌で感じることに繋がるでしょう。