復興の味覚紀行

風評被害を越えて 会津身不知柿にみる復興の軌跡

Tags: 会津身不知柿, 干し柿, 福島県, 会津, 復興, 郷土料理, レシピ, 特産品

故郷の甘露、再生への願いを込めて

福島県会津地方は、豊かな自然と歴史に育まれた地域です。この地で古くから親しまれてきた「会津身不知柿(あいづみしらずがき)」は、干し柿として加工され、会津の冬の味覚として多くの人々に愛されてきました。しかし、東日本大震災に伴う原子力発電所事故は、この伝統ある食文化にも大きな影を落としました。出荷制限とそれに続く風評被害は、柿農家の方々に計り知れない苦難をもたらしました。

それでも、会津の人々は立ち止まりませんでした。安全管理を徹底し、品質向上に努めながら、この故郷の味覚を守り、再び世に送り出すための努力を重ねてきました。会津身不知柿の干し柿は、単なる甘味ではありません。それは、厳しい状況から立ち上がり、伝統を未来へ繋ごうとする会津の人々の不屈の精神と、再生への強い願いが込められた「復興の味覚」なのです。本稿では、この特別な干し柿にまつわる物語とその魅力、そしてご自宅で味わう方法をご紹介いたします。

甘露に秘められた会津の歴史と再生の物語

会津身不知柿の栽培は、江戸時代には既に始まっていたと伝えられる長い歴史を持ちます。渋柿である身不知柿は、そのままでは食べられませんが、干すことで驚くほどの甘味と独特の食感を持つ干し柿へと変化します。「身不知」とは、枝が折れそうになるほどたくさんの実をつける様子から名付けられたとも言われ、その豊かな実りは会津の人々の暮らしを支えてきました。

伝統的な干し柿作りは、秋に収穫した柿の皮をむき、紐で吊るして軒下などで乾燥させる、根気のいる作業です。会津の清らかな空気と厳しい寒さが、柿の甘味を凝縮させ、もっちりとした食感を生み出します。この手仕事による干し柿は、冬の保存食として、また正月のおせち料理にも使われる大切な存在でした。

原子力発電所事故後、一部地域で身不知柿の出荷が制限され、さらに「福島県の農産物は安全ではない」という根拠のない風評が広がりました。長年丹精込めて育ててきた柿が出荷できない、売れないという状況に、多くの農家の方が深い苦悩を味わいました。しかし、行政やJA、そして地域の人々が一体となり、放射性物質検査の徹底、安全性の証明、そして会津身不知柿の美味しさを国内外に発信する取り組みが進められました。

厳しい基準をクリアし、安全性が確認された会津身不知柿の干し柿は、再び市場に出回るようになりました。この過程は、伝統的な栽培方法や加工技術を守りながらも、時代に即した安全管理体制を確立するという、まさに「再生」への道のりでした。今、私たちが味わう会津身不知柿の干し柿一つ一つには、この地の歴史、自然の恵み、そして困難を乗り越え、故郷の味を守り抜こうとした人々の物語が詰まっています。

会津身不知柿の干し柿を味わう・楽しむ

会津身不知柿の干し柿は、美しい飴色をしており、表面に白い粉(柿霜)が吹いているものもあります。これは柿の糖分が結晶化したもので、品質の良い証とされています。一口いただくと、まずその自然な甘さと、ねっとり、もっちりとした独特の食感に驚かされるでしょう。噛むほどに、柿本来の豊かな風味が口の中に広がります。

そのままお茶請けとしていただくのが最も一般的ですが、様々な料理やデザートにも活用できます。例えば、クリームチーズやバターとの相性は抜群です。

干し柿と胡桃のクリームチーズ和え レシピ

ワインのお供にもぴったりな、手軽な一品です。

材料:

分量について: クリームチーズと干し柿はおおよそ同量程度が目安ですが、お好みに合わせて調整してください。胡桃はお好みで加減してください。

調理手順:

  1. 干し柿はヘタを取り、種があれば取り除き、5mm角程度の大きさに刻みます。
  2. 胡桃は粗みじんにするか、袋に入れて麺棒などで叩いて砕きます。フライパンで軽く乾煎りするか、オーブントースターでローストすると香ばしさが増します。
  3. クリームチーズは常温に戻して柔らかくしておきます。ボウルに入れ、ゴムベラなどで滑らかにします。
  4. 3のボウルに刻んだ干し柿と胡桃、お好みでラム酒を加え、全体が均一になるまで混ぜ合わせます。
  5. 器に盛り付け、お好みで黒胡椒を軽く振ったら完成です。

調理のコツ:

食材の入手と現地情報

会津身不知柿は、生柿としては主に秋に会津地方で流通しますが、干し柿としては通年入手が可能です。

食材(会津身不知柿の干し柿)の入手方法:

現地情報:

会津の冬景色を思い浮かべながら、温かいお茶と共に干し柿を味わうのは格別です。自宅でアレンジレシピを試すのも良いですし、可能であればぜひ会津を訪れ、その土地の空気を感じながら、復興の味覚を堪能していただきたいと思います。

未来へ甘味を繋ぐ希望の味

会津身不知柿の干し柿は、厳しい冬を乗り越え、春を待つ会津の自然のように、困難な時代を乗り越え、未来へと歩み続ける人々の希望を映し出す味覚です。一度は危機に瀕しながらも、伝統を守り、安全性を確立し、再び多くの人々に届けられるようになったその甘味は、会津の力強い再生の証でもあります。

この干し柿を味わうことは、単に美味しいものを食べるだけでなく、そこにある歴史や物語、そして復興への想いに触れることでもあります。ぜひ、会津身不知柿の干し柿をお取り寄せいただくか、会津の地を訪れてみてください。きっと、その深い甘味の中に、会津の不屈の精神と温かい人々の心が感じられることでしょう。そして、この甘露が、これからも会津の未来を明るく照らし続けていくことを願っております。