復興の味覚紀行

山里の恵み、復興の温もり 会津こづゆに紡がれる絆

Tags: 会津, こづゆ, 郷土料理, 復興, 福島, レシピ

山里の恵み、復興の温もり 会津こづゆに紡がれる絆

福島県会津地方に伝わる「こづゆ」は、この土地の人々にとって単なる郷土料理以上の意味を持つ存在です。彩り豊かな具材が上品な薄味の汁に浮かぶこの一杯は、古くから祝い事や人が集まる席で振る舞われてきました。そして、長い歴史の中でこの地が経験してきた数々の困難、特に災害や戦乱からの復興の道のりにおいて、こづゆは人々の心に温もりと希望を届け、絆を紡ぐ役割を担ってきたのです。

食文化の背景と物語

会津地方は内陸に位置し、かつては新鮮な魚介類が貴重でした。こづゆは、そうした地理的な制約の中で、手に入りやすい乾物(貝柱、干し椎茸、きくらげ、ゼンマイなど)や、山や畑で採れる根菜や山菜を工夫して用いることで、豊かな旨味と彩りを生み出した料理です。特に、高級品であったホタテの貝柱を乾燥させたものが重要な出汁の役割を果たしており、限られた資源を最大限に活かす先人の知恵が息づいています。

江戸時代末期から明治維新にかけて起こった戊辰戦争では、会津は激しい戦火に見舞われ、多くのものが失われました。困窮した時代においても、人々は少ない材料を寄せ集め、こづゆを作り、分け合うことで、困難を乗り越えようと互いを励まし合いました。祝い事だけでなく、悲しみの中にあっても、この一杯が人々の心の拠り所となり、地域の絆を確かめ合う機会となったのです。

近年では、東日本大震災の影響や、たび重なる自然災害からの復興が進む中で、改めて会津の伝統的な食文化が見直されています。こづゆは、失われかけた地域の歴史や文化を若い世代に伝える貴重な食として、また、故郷を離れた人々にとっては故郷の味として、その存在感を高めています。食卓を囲み、こづゆを共にすることで生まれる語らいは、地域の結束をより強固なものにしています。

料理の紹介とレシピ

こづゆは、干し貝柱や昆布で丁寧にとった出汁をベースにした、あっさりとした薄味の澄まし汁です。特徴的なのは、彩り豊かなたくさんの具材が使われることです。里芋、人参、大根、椎茸、きくらげ、ゼンマイ、糸こんにゃく、そして会津地方独特の「豆麩(まめふ)」などが一般的です。具材はそれぞれ丁寧に下ごしらえされ、形を崩さないように配慮して煮込まれます。お椀に盛り付けられた際に、具材の色合いが美しく見えるように工夫が凝らされているのも特徴です。

自宅で再現するこづゆのレシピ

(目安量:4人分)

材料:

下準備:

  1. 干し貝柱と昆布は分量の水に30分〜1時間浸けておき、戻し汁ごと鍋に入れます。貝柱は指でほぐしておきます。
  2. 干し椎茸と乾燥きくらげ、乾燥ゼンマイはそれぞれたっぷりの水で戻します。椎茸は軸を取り薄切りに、きくらげは石づきを取り食べやすい大きさに、ゼンマイはよく洗って水気を絞り、食べやすい長さに切ります。
  3. 里芋は皮をむき、一口大に切って水にさらし、ぬめりを取ります。
  4. 人参と大根はそれぞれ1cm厚さのいちょう切りまたは半月切りにします。
  5. 糸こんにゃくはさっと茹でてアクを取り、食べやすい長さに切ります。
  6. 豆麩はぬるま湯で戻し、軽く絞っておきます。

作り方:

  1. 下準備した貝柱と昆布の入った鍋を火にかけ、沸騰直前で昆布を取り出します。アクを取りながら弱火で10分ほど煮て、貝柱の旨味を出します。
  2. 里芋、人参、大根を加え、野菜が柔らかくなるまで10分ほど煮ます。
  3. 戻した干し椎茸、きくらげ、ゼンマイ、糸こんにゃくを加えます。
  4. 全ての具材に火が通ったら、醤油とみりんを加え味を調えます。
  5. 最後に豆麩を加え、さっと煮ます。味を見て塩で調整します。
  6. お椀に彩りよく盛り付けて完成です。

調理のコツ:

食材と入手方法

こづゆに欠かせない干し貝柱や乾燥椎茸、きくらげ、ゼンマイといった乾物は、比較的入手しやすい食材です。スーパーマーケットの乾物コーナーや、食材専門店、オンラインストアなどで幅広く取り扱われています。里芋や人参、大根、糸こんにゃくも一般的な食材です。

会津地方ならではの「豆麩」は、地元のスーパーや土産物店でよく見られます。地域外では入手が難しい場合もありますが、オンラインストアで「会津 豆麩」などと検索すると取り扱っている店舗が見つかることがあります。もし入手が難しければ、焼き麩などで代用することも可能ですが、独特の食感と風味がこづゆらしさを形作っているため、可能であればぜひお試しいただきたいものです。

現地情報

会津地方を訪れる機会があれば、ぜひ本場のこづゆを味わってみてください。会津若松市内の郷土料理店や、温泉旅館の食事などで提供されることが多いです。会津塗りの美しいお椀に盛り付けられたこづゆは、目でも舌でも楽しむことができます。

一部の施設では、こづゆを含む郷土料理の調理体験を提供している場合もありますので、自分で作ってみたいという方は調べてみると良いでしょう。また、秋には収穫祭や文化イベントなどで郷土料理が振る舞われる機会もあるかもしれません。

情景描写

会津の山々に囲まれた静かな食卓に、温かい湯気を立てて運ばれてくるこづゆの椀。会津塗りの上品な漆器には、淡い人参の朱色、里芋や大根の白、椎茸やきくらげ、ゼンマイの深い色合い、そして丸い豆麩が、まるで絵画のように美しく盛り付けられています。

一口頬張ると、貝柱と昆布の優しい出汁の香りがふわりと広がり、続いてそれぞれの具材から染み出た旨味があわさります。里芋のほっくりとした食感、人参や大根の柔らかな甘み、乾物の奥深い風味、そして豆麩のつるりとした口当たり。それらが一体となって、じんわりと体に染み渡るような、どこか懐かしく、心安らぐ味わいを生み出します。雪深い冬の日も、新緑の春の日も、この一杯が会津の人々の暮らしに寄り添い、温もりを与え続けている情景が目に浮かぶようです。

結論

会津の伝統料理こづゆは、単なる美味しい汁物というだけでなく、この地の歴史、人々の知恵と工夫、そして困難な時代を共に生き抜いてきた絆の象徴です。限られた物資の中から生まれた豊かな味わいは、復興への道のりにおいて、人々に希望と活力を与えてきました。

この一杯には、会津の厳しい自然の中で培われた粘り強さと、互いを思いやる温かい心が宿っています。ぜひご家庭でこの「復興の味覚」を再現してみてください。あるいは、実際に会津の地を訪れ、歴史ある街並みの中でこづゆを味わい、この料理が紡いできた物語に触れてみるのも素晴らしい経験となるでしょう。こづゆを通して、会津の風土と人々の温かさ、そして復興への確かな歩みを感じていただければ幸いです。